吉田さらさのイベントとお知らせ

寺と神社の旅研究家、吉田さらさの新刊、雑誌記事、講座、ツアー、イベントなどの情報です。

神様が棲む場所にたつ小さな温泉宿

 

引き続き、岩手仏像旅のお話。
今回は雑誌の取材だったので、編集者さんが宿を予約してくれました。
仏像だけでなく旅全体がテーマなので、その宿も撮影して、
誌面で紹介するのです。

したがって、見栄えがよい高級温泉に行くとばかり思っていましたが、
さにあらず。予約された宿は、1泊2食6000円という低価格の、
お世辞にも「素敵」とは言えないところでございました。
「簡素だけれど、お風呂がいいって話しですよ」と編集者さんは言うけれど・・・

しかも、けっこう遠くて、花巻の市街地から、街灯ひとつない道を小一時間ばかり。やがて山道に入ると、暗闇で野生動物の目が光ります。

「ひぇええ。怖い」と、運転してくれていたカメラウーマンの飯田裕子さんも
ビビり気味。
ちなみに飯田さんは、古くからの友人でA級ライセンス保持者。
うん10年前には、南太平洋のサモア島というところにご一緒し、
生きるか死ぬかの大冒険も、ともに体験しました。
(ここでは詳しく書けませんが、サモア島では、とても現実とは思えない
おそろしい事件が数々おきましたっけ)

そんな飯田さんもビビるほどですから、この道がどれほど怖かったか、ご理解いただけるでしょう。
「こんなことなら、花巻市内のビジネスホテルに泊まればよかったのに・・・」と、おばちゃん二人、ぼやくことしきり。

しかし、出された夕食を目の前にして、わたしたちの評価は大きく変わりました。
とても6000円の宿とは思えない品数とお味だったからです。
天ぷら、お刺身など、一般的なものに加え、岩手名物の芋の子汁の美味しかったこと。
作ってくれたのは、自称「日本中で修行した」板前さん。(正しくは東北中で修行した)。

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しかし、編集さんから「いいらしい」と聞いていたお風呂は、そんなに広くもなく、露天風呂もなく、うーん・・・という感じ。

でも、翌朝起きて、驚きました。
部屋の窓一面に、驚くべき紅葉風景が展開していたからです。
着いたときはすでに真っ暗だったから、こんな絶景の宿とは夢にも思わなかったよ。

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お風呂に行ってみると、ここでも窓から見える紅葉が、まるで壁に掛けた一幅の絵画のよう。それを眺めながらじっくり湯に浸かってみると、なるほど、なかなかいいお湯です。さらさらとした無臭の湯だけれど、何かすごく体によい成分が入っているみたいで、長いこと入っていてものぼせない。
すごく気に入りましたよ。この温泉。次回はもっと長逗留したいですね。

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 宿が建っている場所も、実はものすごかった。
単に渓流沿いではなく、大きなダムの真下。
何でも温泉自体は江戸時代から湧いていて、ダムができたために、
20年くらい前に、少しだけ移転したのだとか。
ダムの上から眺めてみると、その存在の貴重さがよくわかりました。

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澄み切った空の下の山並みも、この世離れした美しさ。
ここはもはや、神の領域なのでは?

「そうか。この風景を見せるために、神は、われわれを、あの宿に泊まるように仕向けたのだ。真実は、一番高いところに登ってみないとわからないものなのだ」

最後にわれわれがたどり着いた結論は、それでした。

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世の中、見栄えがよいものが本物とは限らない。
値段が高いからっていいわけではない。
有名だからって、優れているわけでもない。
むしろ、華美で高価で有名なものほど疑ってかからないと
いけないのだ。

この年になるまでにさまざまなことを体験し、
そのくらいのことは、とっくにわかっていたはずですが、
今回はすっかり忘れていました。
大切なこと思い出させてくれた入畑温泉瀬目乃湯さんに感謝です。

入畑温泉のHPはこちら。
http://www.vijp.com/irihataonsen/